歯並びと遺伝子疾患 (日本矯正歯科学会@名古屋)


今年の日本矯正歯科学会は名古屋国際会議場で開催されました。
名古屋国際会議場と言えば、この立派な像がお出迎えです。以前にも当ブログで登場したことがありますね。

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今年は開催期間が4日間と長く、たくさんの講演・発表が行われました。
中でも個人的に興味深かったのは、教育講演として行われた遺伝子疾患についての2演題でした。

人間の体を構成するために用意された遺伝子情報は、わずか2万程度(21787)であることが知られています。これは人間の体の複雑さからすると、信じられないぐらいコンパクトな情報量です。
1つの遺伝子情報は平均3000の塩基対から構成されているそうですから、コンピューターで馴染みの情報単位に換算すると、21,787×3,000×2bit=15.6Mbyte(16進法表記)となります。
GB(ギガバイト)ではありませんよ!たったの16メガバイト弱なんです。

これは、安いものだと数百円で売られている2GB(10進法表記)のSDカードなら、約119人分の遺伝情報が収録出来てしまう計算です。
音楽CDは640MB(10進法表記)ですから、39人分に相当します。
64GBのiPhone4Sなら空き容量は約57GB(16進法表記)ですから、なんと3741人分が入ってしまいます。
(補足:人間の塩基対は全部で約30億対あるため、これをコンピューター風に表現すると約715.3Mbyteです。実際に遺伝情報が載っているのは15.6Mbyteですから、遺伝情報として使用されている領域は全塩基対のわずか3%以下ということになります。)

たったこれだけの情報量で体の構成をすべて網羅するには、とてつもないデータ圧縮が必要です。
私たちがコンピュータープログラムの圧縮などで使う可逆圧縮(完全に元通りに復元できる圧縮方法)では、とてもこんなに小さくすることはできません。
音楽や写真、映像などの分野で使われている非可逆圧縮(人間にはほとんど元通りに見えるが、実際にはいくらか情報を端折っている)では、離散コサイン変換というかなり能率の良い武器が使えるため、元の10分の1以下に圧縮することができます。ウォークマンもDVDも地デジも、みんなこの方法の仲間を使用しています。しかしこれでも遺伝情報の圧縮能率には到底かないません。

じゃあ、遺伝子はどんなトリックを使っているのかと言うと、実は1つの遺伝子が1回だけ使用されるのではなく、様々な場所で何度も使いまわしをされているのです。
例えば、歯や歯肉、唇などを形づくる遺伝子は、脳神経や手足、血球などを作るときにも使用されています。
これは我々が実用化している圧縮技術とはまったく異なるもので、あえて言うならばフラクタル圧縮がイメージ的に近いものだと思います。(もちろん現存するフラクタル圧縮方法で同等のものは無いと思います。)

やっと本題に入りますが、矯正治療の対象となる口腔組織やその機能は、多数の遺伝子の作用によって複雑に形成されるため、遺伝子のトラブルによる影響を受けやすい領域であることが分かっています。
例えば、ある特定の遺伝子疾患と診断されないような軽度の遺伝子欠損が存在する場合でも、歯並びや歯根の形態に影響を与える可能性があります。
このことは常識的に考えられている遺伝子疾患の頻度よりもずっと高い確率で非典型的な症例が存在することを意味しています。そのため、すべての患者さんに対して通常は見られないような歯根吸収が生じていないか、歯周組織の脆弱性がないか、その他あらゆる非典型的な振る舞いがないかについて、治療中も経過をよく確認することが重要だと考えています。

なお学会の講演では、遺伝子検査の最前線(試験段階のもの)や、歯科との協力体制等について紹介されました。

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さて、今回の学会では発表の撮影が禁止されていたため、代わりに名古屋市内某ホテルのロビーで撮ったこんな写真を。ホンダがF1に参戦していたときのマシンです(99年型BAR001に07年型RA108のペイントをしたもの)。
これを見ていると、もし佐藤琢磨があのままホンダに乗れていたら、そしてホンダの撤退があと1年遅かったら・・・などなど、日本人として色々と複雑な気持ちになってしまいました。

今のF1マシンに目が慣れていると、99年当時のマシンは非常にシンプルな形状に見えてしまいます。
現在のF1マシンは技術や理論があまりに高度で、どのパーツがどこでどんな空力作用を与えるのか、まったく想像もつかなくなっています。
もはや遺伝子レベルです。

by yamawaki2527 | 2011-11-04 01:25 | ちょっとアカデミックな話  

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